看護や介護の現場において、バイタルサインの報告は日常業務の中でも特に重要な情報伝達の一つとされています。測定した数値を正確に伝えるだけでなく、その数値から何が読み取れるのかまでを含めて報告することが求められるため、苦手意識を持つ方も少なくありません。

特に看護学生の実習では、担当看護師への報告が大きな関門となることがあります。適切な報告の型を身につけておくことで、緊張する場面でも必要な情報を漏れなく伝えることが可能になります

この記事では、バイタルサインの報告に使える具体的な例文を、場面別にわかりやすく紹介します。正常時の報告から異常値を発見した際の緊急報告まで、すぐに活用できるテンプレートをまとめましたので参考にしてください。

  • バイタルサインの正常値と基準を一覧で確認できる
  • SBARを使った報告の組み立て方がわかる
  • 場面別に使える報告の例文が手に入る
  • 介護現場での記録と略語の使い方を把握できる

バイタルサインの報告で押さえるべき基本

バイタルサインの報告で押さえるべき基本

バイタルサインを正確に報告するためには、基準値の理解と報告の型を押さえておく必要があります。ここでは、報告に必要な基礎知識と、現場で活用されている報告フレームワークを解説します。

バイタルサインの正常値と基準の把握

バイタルサインの報告を行う際、まず理解しておくべきなのは各項目の正常値(基準値)です。正常値を把握していなければ、測定した数値が異常なのかどうかを判断することができません。

ナース専科の解説によると、バイタルサインとは「生命徴候」のことであり、体温・脈拍・血圧・呼吸・意識レベルの5項目が基本とされています。それぞれの成人における正常値は以下のとおりです。

項目 正常値(成人) 略語
体温 36.0〜37.0℃ BT / T
脈拍 60〜80回/分 PR / P
血圧 120/80mmHg以下 BP
呼吸数 12〜20回/分 RR / R
SpO2 96〜99% SpO2

これらの数値はあくまで一般的な基準であり、患者の年齢や既往歴、服薬状況によって個人差があります。報告の際は、その患者にとっての「普段の値」と比較して変化があるかどうかを意識することが重要です。

たとえば、普段の血圧が140/90mmHgの患者が110/70mmHgに下がっていた場合、一般的な正常値の範囲内であっても「その患者にとっては異常な低下」と判断すべきでしょう。基準値を暗記するだけでなく、個別性を踏まえた報告ができるかどうかが問われます。

バイタルサイン SBARを活用した報告の組み立て方

SBARを活用した報告の組み立て方

バイタルサインの報告で広く活用されているフレームワークがSBAR(エスバー)です。ナース専科の記事によると、SBARはアメリカの医療安全プログラム「TeamSTEPPS」の中で開発された報告手法であり、日本の医療現場でも広く導入されています。

SBARは以下の4つの要素で構成されています。

S(Situation)状況「〇〇さんの血圧が低下しています」

B(Background)背景「昨日の手術後から徐々に血圧が下がっており、術前は130/80でした」

A(Assessment)評価「出血の可能性があると考えます」

R(Recommendation)提案「一度診察いただけませんでしょうか」

SBARの最も重要なポイントは、最初にSituation(状況)を伝えることです。「何が起こっているのか」を先に述べることで、聞き手は報告の全体像を素早く把握できます。背景情報から話し始めると、聞き手は「結局何が言いたいのか」がわからず、情報の整理に時間がかかってしまうでしょう。

近年ではSBARの前に「I(Identify=報告者と対象者の同定)」が追加された「I-SBAR」や、さらに「C(Confirm=口頭指示の復唱確認)」を加えた「I-SBARC」も使われています。報告の最初に「〇号室の〇〇さんについてご報告します」と名乗りと対象を明確にすることで、より正確な情報伝達が実現できます。

報告前に確認しておくべき情報

バイタルサインの報告をスムーズに行うためには、報告の前に必要な情報を整理しておくことが欠かせません。測定値だけでなく、患者の背景情報やその日の状態変化を把握した上で報告に臨むことが求められます。

報告前に確認すべき主な情報は以下のとおりです。

報告前の確認事項として、患者の氏名と病室番号、測定した時刻、直近のバイタルサインの推移、当日の治療内容や処置の予定、患者の自覚症状の有無、医師からの指示内容(コール基準など)を整理しておくと報告がスムーズに進みます。

特に看護実習生の場合、報告の前にメモを取っておくことが推奨されます。頭の中で整理しようとすると、緊張で飛んでしまうことがあるためです。測定値、観察した内容、自分のアセスメント(考え)を箇条書きで書き出しておくと、落ち着いて報告できるでしょう。

報告のタイミングについても注意が必要です。担当看護師に「バイタルサインのご報告をしたいのですが、今お時間よろしいでしょうか」と一声かけてから報告を始めることが、円滑なコミュニケーションの第一歩と言えます。

バイタルサイン 異常値を発見した際の報告の優先順位

異常値を発見した際の報告の優先順位

バイタルサインに異常値が見られた場合、通常の報告とは異なる緊急性を持った対応が求められます。午前・午後の定時報告を待つのではなく、発見した時点で速やかに報告することが原則です。

異常値の報告では、「何がどのくらい逸脱しているのか」を数値で明確に伝えることが重要です。「血圧が低いです」ではなく「収縮期血圧が80mmHgまで低下しています。普段は130mmHg前後です」のように、具体的な数値と普段との差を示すと、聞き手が状況を正確に判断できます。

緊急度が高い異常値の目安として、収縮期血圧90mmHg以下または180mmHg以上、脈拍40回/分以下または120回/分以上、SpO2が90%以下、体温38.5℃以上または35.0℃以下、呼吸数10回/分以下または30回/分以上の場合は、即座に報告が必要とされています。

異常値を報告する際は、バイタルサインの数値だけでなく、患者の全体的な状態(意識レベル、顔色、発汗の有無など)も併せて伝えることが望ましいでしょう。数値だけでは伝わりにくい患者の状態を補足することで、医師や看護師がより適切な判断を下すことができます。

報告時に避けたいよくある失敗

バイタルサインの報告で起きがちな失敗として、数値だけを羅列してしまうことが挙げられます。「体温36.5℃、脈拍72回、血圧118/70、呼吸18回です」と数値を並べるだけでは、その数値をどう解釈すべきかが聞き手に伝わりません。

報告は「観察した事実」「そこから考えたアセスメント」「今後の方針」の三点セットで行うのが基本です。数値を伝えた後に「前回と比較して大きな変化はなく、経過は良好と考えます」のように自分の判断を加えることで、報告としての質が格段に向上します。

NG「体温36.8℃、脈拍78回、血圧124/76です。以上です。」

OK「体温36.8℃、脈拍78回、血圧124/76でした。昨日と比較して著変なく、自覚症状の訴えもないため、経過は良好と考えます。」

もう一つの失敗パターンは、報告の順番がバラバラになることです。体温→脈拍→血圧→呼吸→SpO2の順番で報告するのが一般的であり、毎回同じ順番で報告することで聞き手が情報を整理しやすくなります。報告のフォーマットを決めておき、毎回同じ型で報告する習慣をつけることが大切でしょう。

バイタルサインの報告に使える場面別の例文

バイタルサインの報告に使える場面別の例文

ここからは、実際の現場で使える報告の例文を場面ごとに紹介します。自分の状況に合った例文を参考に、報告の準備に役立ててください。

看護実習で使えるバイタルサイン報告の例文

看護実習における担当看護師への報告は、多くの学生が緊張する場面です。報告の型を事前に覚えておくことで、スムーズに伝えることができます。

例文「〇〇さん、〇号室の△△さんのバイタルサインのご報告をしたいのですが、お時間よろしいでしょうか。10時に測定いたしました。体温36.4℃、脈拍68回/分で整、血圧122/74mmHg、呼吸数16回/分、SpO2 98%でした。昨日と比較して大きな変動はなく、ご本人からの苦痛の訴えもございませんでしたので、現時点では経過良好と考えます。」

実習での報告で特に意識したいのは、「結論から述べる」ことです。看護師は多忙な業務の合間に報告を受けるため、最初に「経過良好です」「血圧が低下しています」など結論を一言で伝えてから詳細に入る流れが好まれます。

報告の最後には「何か確認すべきことはありますでしょうか」と付け加えると、指導者に好印象を与えるでしょう。報告は一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションであることを意識することが大切です。

また、実習中は複数の患者を受け持つこともあるため、患者ごとの情報が混同しないよう、メモを整理してから報告に臨むことが推奨されます。報告後に看護師から質問を受けた場合も慌てず、わからないことは「確認して改めてご報告いたします」と伝えれば問題ありません。正確な情報を届けることを最優先に考えましょう。

正常時の報告をスムーズに伝える例文

バイタルサインがすべて正常範囲内の場合でも、「異常がなかった」ということ自体が重要な情報です。正常時の報告を簡潔かつ正確に行うための例文を紹介します。

例文「〇号室の△△様、10時のバイタルサインをご報告いたします。BT 36.6℃、P 72回/分 整、BP 118/72mmHg、RR 16回/分、SpO2 98%でした。前回と比較し著変ございません。食欲も良好で、創部の疼痛訴えもありません。引き続き経過観察でよろしいでしょうか。」

正常時の報告では、数値を伝えた後に「著変なし」「経過良好」といったアセスメント(判断)を一言添えることで、報告として完結します。数値だけで終わってしまうと、「で、どうなの?」と聞き返されてしまう可能性があるでしょう。

正常時であっても、患者の状態で気になった点があれば報告に含めます。「バイタルは安定していますが、昨晩はあまり眠れなかったとおっしゃっていました」のように、数値以外の観察情報を加えることで、より質の高い報告になります。

看護roo!のバイタルサイン基準値まとめでも確認できるとおり、年齢や性別による基準値の違いにも注意が必要です。高齢者の場合は成人の基準値をそのまま当てはめられないケースもあるため、個別性を踏まえた判断が求められます。

バイタルサイン 異常値があった場合の緊急報告の例文

異常値があった場合の緊急報告の例文

異常値を発見した場合は、速やかに、かつ正確に報告することが最優先です。SBARの型を使った緊急報告の例文を示します。

例文(SBAR型)「〇〇先生、〇号室の△△様についてご報告いたします。【S】血圧が低下しており、意識レベルも変化しています。【B】現在のバイタルはBP 82/50、P 110回/分、SpO2 93%です。普段の血圧は130/80前後で、本日14時の測定まで安定していました。【A】循環動態の悪化が疑われます。【R】一度診察いただけませんでしょうか。」

緊急時の報告で最も避けるべきなのは、背景情報から話し始めてしまうことです。「えーと、〇〇さんは昨日入院されて、既往歴が……」と経緯から話すと、聞き手は「で、今何が起こっているの?」と焦ってしまいます。「血圧が急落しています」「意識レベルが低下しています」と、まず現在の異常を一言で伝えることが鉄則です。

緊急報告の際は、測定値に加えて患者の外見的な変化(顔面蒼白、冷汗、チアノーゼなど)も伝えると、相手がより迅速に状況を把握できます。電話での報告では、復唱確認(「〇〇の指示ということで間違いありませんでしょうか」)も忘れずに行いましょう。

介護現場でのバイタルサイン報告の例文

介護施設やデイサービスにおけるバイタルサインの報告は、看護職への連絡と記録の二つの側面があります。介護職員が測定した数値を看護師や医師に適切に伝えることで、利用者の健康管理がより精度の高いものになります。

例文(介護→看護師への報告)「看護師の〇〇さん、△△様の本日のバイタルについてご相談があります。BT 37.8℃で普段より高めです。BP 148/92、P 88回/分でした。ご本人は『なんとなく体がだるい』とおっしゃっており、食事量も普段の半分程度でした。受診の必要があるか、ご判断いただけますでしょうか。」

介護現場での報告では、バイタルの数値に加えて生活面での変化(食事量、水分摂取量、排泄の状況、睡眠の質など)を伝えることが特に重要です。これらの情報は看護職が総合的な判断を行う際の重要な材料となるでしょう。

デイサービスでは、バイタルチェック表に記録した数値を家族や他のスタッフと共有するケースもあります。誰が見てもわかりやすい記載を心がけ、気になる変化があった場合は数値だけでなく状況の説明も添えることが望ましいでしょう。

訪問介護の現場では、限られた時間内でバイタルサインを測定し、記録と報告を行う必要があります。訪問時に前回の記録と比較しやすいよう、連絡ノートや介護記録ソフトに統一フォーマットで記入する習慣をつけておくと、チーム全体の情報共有がスムーズになるでしょう。

バイタルサイン 記録と申し送りで役立つ略語の使い方

記録と申し送りで役立つ略語の使い方

バイタルサインの記録では、略語を使って簡潔に記載するのが一般的です。口頭での報告では正式名称を使い、記録では略語を活用するという使い分けが現場では求められます。

正式名称 略語 記載例
体温(Body Temperature) BT BT 36.5℃
脈拍(Pulse Rate) PR / P P 72回/分 整
血圧(Blood Pressure) BP BP 120/78mmHg
呼吸数(Respiratory Rate) RR RR 18回/分
経皮的動脈血酸素飽和度 SpO2 SpO2 98%

記録を書く際の注意点として、後から改ざんできないようにすることが求められます。ボールペンで記載し、間違えた場合は修正テープではなく二本線で訂正した上で訂正印を押すのが基本です。電子カルテの場合も、入力後の修正履歴が残る仕組みになっています。

申し送りでは、「BT 36.5、P 72整、BP 120/78、RR 18、SpO2 98。著変なし」のように略語と数値を端的に伝え、特記事項があればその後に付け加えるのが効率的です。毎回同じフォーマットで申し送ることで、聞き手も情報を受け取りやすくなるでしょう。

バイタルサインの報告で意識したいポイント

ここまで、バイタルサインの報告に必要な基礎知識と場面別の例文を紹介してきました。最後に、報告の質を高めるために日頃から意識しておきたいポイントをまとめます。

バイタルサインの報告で最も大切なのは、「数値を伝えること」ではなく「患者の状態を伝えること」です。数値はあくまで患者の状態を示す指標の一つに過ぎません。その数値が何を意味するのか、患者にとってどのような意味を持つのかを考えた上で報告することが求められます。

報告の基本は「事実」「アセスメント」「提案」の三点セットです。測定した数値(事実)を伝え、そこから何が考えられるか(アセスメント)を述べ、今後どうすべきか(提案)を加えることで、報告として完結します。

報告に自信がない場合は、先輩やプリセプターに「この数値をこう解釈したのですが、考え方は合っていますでしょうか」と確認することも有効です。報告は経験を重ねるほど上達するものであり、最初から完璧を求める必要はありません。繰り返し練習して型を体に覚えさせることで、どのような場面でも落ち着いて報告できるようになるでしょう。

チームでの情報共有において、バイタルサインの報告は患者の安全を守るための重要な役割を果たしています。一人で完結させるのではなく、チーム全体で情報を共有し、より良いケアにつなげるという視点を持つことが、報告の質をさらに高める鍵となるでしょう。

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