ハラスメントの報告書テンプレートは、職場でハラスメント事案が発生した際に、調査結果を正確かつ客観的に記録するための書式です。2022年4月から全事業主にパワハラ防止措置が義務化され、報告書の作成はますます重要になっています。

しかし、いざ報告書を作成しようとすると、何をどのように書けばよいか迷う人事担当者も少なくないでしょう。テンプレートを正しく理解して活用することで、抜け漏れのない報告書を効率的に作成できます

この記事では、ハラスメント報告書テンプレートの基本的な記載項目から、パワハラ・セクハラ別の記載例、作成時の注意点まで幅広く解説します。

  • ハラスメント報告書テンプレートに必要な記載項目
  • 苦情相談報告書と調査報告書の違い
  • パワハラ・セクハラ別の記載例
  • 報告書作成時の注意点と活用のコツ

ハラスメント報告書テンプレートの基本と記載項目

ハラスメントの報告書にはいくつかの種類があり、それぞれ記載すべき項目や作成のタイミングが異なります。ここでは、テンプレートの基本構成と各書類の役割について解説します。

ハラスメント報告書テンプレートの基本と記載項目

ハラスメント報告書が求められる理由

企業がハラスメント報告書を作成する理由は、法的義務への対応と社内対策の両面にあります。厚生労働省の指針では、ハラスメントの相談があった場合に「事実関係を迅速かつ正確に確認すること」が事業主の義務として定められています。この義務を果たすための記録が報告書です。

報告書は、具体的には以下の3つの目的で作成されます。第一に、再発防止策を策定・実行するための基礎資料とすること。第二に、諮問委員会や外部機関への説明に備えること。第三に、行為者に対する懲戒処分を決定する際の根拠とすることです。

たとえば、部署内でパワハラの訴えがあった場合、口頭での報告だけでは行為者の処分を検討する際に「言った・言わない」の問題が生じやすくなります。文書として記録することで、判断の根拠が明確になります。

また、調査報告書の作成は法律上の義務ではありませんが、客観的で明確な資料があれば当事者の納得も得やすくなるでしょう。トラブルの拡大を防ぐうえでも、テンプレートを活用して漏れなく記録を残すことが重要です

苦情相談報告書に記載すべき項目

苦情相談報告書は、ハラスメントの相談を受けた初期段階で作成する書類です。相談窓口の担当者が面談の内容をそのまま記録するもので、事実認定の前段階に位置づけられます。

テンプレートに含めるべき基本項目は以下のとおりです。相談者の氏名(所属・職名)、被害を受けた者の氏名(相談者と異なる場合)、行為者とされる人物の氏名(所属・職名)、相談日時、相談内容の詳細(5W1Hを意識)、そして相談者が希望する対応です。

5W1Hとは、「いつ(When)」「どこで(Where)」「誰が(Who)」「誰に(Whom)」「何をした(What)」「どのように(How)」を指します。ハラスメントの事実関係を正確に把握するための基本フレームワークです。

苦情相談報告書は、あくまで「相談内容の記録」であり、この段階でハラスメントの有無を判断するものではありません。相談者の発言を正確に書き留め、後の調査に活用できるよう整理しておくことが求められます。相談者が不安や恐怖を感じている場合も多いため、面談の雰囲気や相談者の様子も補足情報として記録しておくとよいでしょう。

ハラスメント報告書 報告書の作成フロー

調査報告書の構成と書き方

調査報告書は、ヒアリングや証拠収集を終えた後に作成する文書です。事実認定から結論、再発防止策までを体系的にまとめるため、苦情相談報告書よりも詳細な構成が必要になります。

マネーフォワードのハラスメント調査報告書テンプレートなどで紹介されている標準的な構成は、調査の目的、調査方法、調査結果、調査の結論、調査の提言(再発防止策)、調査担当者、調査実施期間の7項目です。

項目 記載内容 ポイント
調査の目的 ハラスメントの有無の判定 調査の範囲を明確にする
調査方法 ヒアリング・証拠分析 実施した方法を具体的に列挙
調査結果 判明した事実関係 客観的事実のみを記述
調査の結論 ハラスメント該当性の判定 事実に基づいた論理的判断
調査の提言 再発防止策 具体的な措置を明記
調査担当者 担当者の氏名・役職 独立性・中立性を確保
調査実施期間 開始日から完了日 迅速な対応を示す

調査報告書の核心は「調査結果」と「調査の結論」の部分です。ヒアリングで得た情報をどのように評価し、ハラスメントに該当するかどうかを判断した過程を論理的に記述することが求められます。

ハラスメント報告書 苦情相談報告書と調査報告書の比較

ヒアリングシートの役割と活用法

ヒアリングシートは、被害者・行為者・目撃者それぞれから事情を聴取する際に使用するテンプレートです。調査報告書の基礎データを収集するために欠かせない書類であり、被害者用と行為者用で質問項目が異なります。

被害者用のヒアリングシートでは、被害の具体的内容(日時・場所・行為の詳細)、行為が行われた回数や期間、目撃者の有無、証拠の有無(メール・録音等)、そして相談者が望む解決方法を聞き取ります。

たとえば、「2025年12月10日の午後3時頃、会議室Aにおいて、上司のB氏から大声で叱責された。同席していたC氏が目撃している」というように、具体的な日時・場所・行為者・目撃者を記録します。

行為者用のヒアリングシートでは、被害者が申告した事実に対する認識を確認します。重要なのは、最初から「ハラスメントをした」と決めつけずに事実確認を行うことです。行為者の言い分も公平に聞き取り、双方の主張を照合することで公正な事実認定につなげます。

パワハラ報告書の記載例

パワーハラスメントの報告書では、厚生労働省が定義する6つの類型(身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求、個の侵害)のどれに該当するかを意識して記載するとよいでしょう。

記載例「調査の結果、被害者Aが申告した事実(2025年12月10日、会議室Aにおいて、行為者Bが他の従業員の面前で被害者Aに対して『お前は使えない』『辞めてしまえ』等の暴言を繰り返した)は、行為者B本人および目撃者C・Dの証言により認定された。本件行為は、厚生労働省が定めるパワーハラスメントの6類型のうち『精神的な攻撃』に該当するものと判断する。」

パワハラ報告書では、行為の具体的内容に加えて、それが業務上の必要性を超えているかどうかの評価も重要です。上司の指導が正当な範囲なのか、それとも人格否定に至っているのかを事実に基づいて判断し、記述する必要があります。行為の頻度や継続期間も重要な判断材料になるため、時系列で整理して記載することが効果的です。

厚生労働省のハラスメント防止ページには、パワハラの定義や判断基準に関する詳細な資料が掲載されていますので、報告書作成の参考にしてください。

セクハラ報告書の記載例

セクシュアルハラスメントの報告書では、「対価型」(職務上の地位を利用した性的な言動)と「環境型」(就業環境を害する性的な言動)の区分を意識した記載が求められます。

NG例として避けるべき記述は「被害者の態度にも問題があった」「被害者が拒否の意思を示さなかった」等の被害者側に責任を転嫁するような表現です。セクハラの報告書では、行為者の行為そのものが問題であり、被害者の対応を評価の対象にすべきではありません。

記載例「調査の結果、行為者Eが業務時間中に被害者Fに対し、容姿に関する発言を繰り返し行ったこと、および懇親会において身体への不必要な接触があったことが認定された。これらの行為は、被害者Fの就業環境を著しく害するものであり、環境型セクシュアルハラスメントに該当すると判断する。」

セクハラ報告書では、被害者のプライバシーへの配慮がとりわけ重要です。報告書の記載は事実認定に必要な最小限の情報にとどめ、不必要に詳細な描写を避けるとともに、報告書の閲覧範囲を厳格に管理することが求められます

ハラスメント報告書テンプレートの活用と注意点

テンプレートを手にしただけでは、質の高い報告書は作成できません。ここでは、報告書を作成する際に押さえておくべき注意点や、テンプレートを実務で効果的に活用するためのポイントを解説します。

ハラスメント報告書テンプレートの活用と注意点

客観的な事実のみを記載する重要性

ハラスメント報告書において最も重要な原則は、客観的な事実のみを記載し、主観や憶測を排除することです。報告書は行為者への懲戒処分の根拠となる文書であり、作成者の感情や推測が混入すると、公正性が損なわれます。

たとえば、「行為者は明らかに悪意を持って行動していた」という記述は主観的な判断です。これを客観的に書き直すと、「行為者の発言は、目撃者3名の証言が一致しており、業務上の必要性を超えた叱責であったと認定される」となります。

「事実」と「評価」を明確に分けて記述することがポイントです。たとえば、「被害者Aは泣いていた(事実)。この行為は被害者の精神的健康に重大な影響を与えたものと評価される(評価)」というように、段階を踏んで記述します。

特に被害者に感情移入してしまうと、無意識のうちに行為者に不利な記述に偏る傾向があります。報告書の信頼性を保つためにも、事実と評価を明確に分離する習慣を身につけることが大切です。報告書の下書きが完成した段階で、第三者に内容をレビューしてもらうことも、客観性を担保するための有効な方法でしょう。

ハラスメント報告書 NG例とOK例の比較

情報管理と共有範囲の設定

ハラスメント報告書は「取扱注意」の文書です。報告書に記載された情報が社内に漏洩すると、被害者のプライバシーが侵害されるだけでなく、二次被害を引き起こす恐れがあります。

報告書の共有範囲は、原則として経営層、人事部門、法務部門、および問題が発生した部署の責任者に限定すべきです。それ以外の従業員には、調査が行われていること自体を知らせない配慮が求められます。

報告書のファイルにはパスワードを設定し、印刷物は鍵のかかるキャビネットに保管するなど、物理的・電子的な情報管理を徹底してください。報告書の紛失や漏洩は、企業の信頼を大きく損なう事態に直結します。

また、報告書の保管期間についても社内規程で定めておくとよいでしょう。一般的には、懲戒処分に関連する書類は一定期間(3年から5年程度)保管することが推奨されます。保管期間が過ぎた報告書は、適切な方法で廃棄し、個人情報が残らないよう配慮することも忘れてはなりません。

ハラスメント報告書 情報管理4つのポイント

再発防止策の盛り込み方

調査報告書の「提言」セクションでは、ハラスメントの再発を防止するための具体的な措置を提案します。抽象的な内容にとどまらず、実行可能な対策を時系列で整理することが望ましいでしょう。

再発防止策は、短期的な対応と中長期的な対応に分けて記載すると分かりやすくなります。短期的な対応としては、行為者と被害者の配置転換や行為者への厳重注意が挙げられます。中長期的な対応としては、全社的なハラスメント研修の実施や相談窓口の周知強化が考えられます。

たとえば、再発防止策として「行為者Bに対する厳重注意(1週間以内)」「全従業員を対象としたハラスメント防止研修の実施(四半期以内)」「匿名相談制度の導入検討(半年以内)」のように、実施時期を明記すると実効性が高まります。

再発防止策は「書いて終わり」ではなく、実施状況のフォローアップまでを含めて計画することが、真の意味での再発防止につながります

相談窓口設置義務との関連

2022年4月の法改正により、すべての事業主にパワーハラスメント防止のための相談窓口設置が義務付けられました。デイライト法律事務所のハラスメント関連書式でも解説されているとおり、報告書テンプレートは相談窓口の運用と密接に関連しています。

相談窓口で受け付けた相談内容は、苦情相談報告書に記録されます。その後、調査が必要と判断された場合にヒアリングシートを用いた聞き取りが行われ、最終的に調査報告書としてまとめられるという流れです。

つまり、報告書テンプレートは相談窓口の「出口」に位置する書類であり、窓口の運用品質を左右する重要なツールです。テンプレートが整備されていないと、相談を受けても適切な記録が残せず、法的義務を果たせない事態に陥る可能性があります。

人事部門の担当者は、相談窓口のマニュアルと合わせて、報告書テンプレートの整備と更新を定期的に行うことが望ましいでしょう。法改正の動向を注視しつつ、実際の相談事例から得られた知見をテンプレートに反映させていくことが、窓口運用の質を高める鍵です。

外部専門家への依頼を検討する場面

社内の人事担当者だけで報告書を作成することに不安がある場合、外部の弁護士や社会保険労務士に依頼する選択肢もあります。とりわけ、以下のような場面では外部専門家の関与が推奨されます。

第一に、行為者が経営幹部や役員である場合です。社内の人間だけで調査を行うと、中立性や独立性に疑義が生じやすくなります。第二に、被害者が複数名にわたる組織的なハラスメントの場合です。調査の規模が大きくなると、事実認定の作業も複雑化します。

第三に、労働審判や訴訟に発展する可能性がある場合です。報告書が法的手続きの証拠として提出される可能性を見据え、法律の専門家が内容を確認しておくことで、後のリスクを軽減できます。

外部専門家への依頼は費用がかかりますが、不適切な報告書が原因で訴訟リスクが拡大する場合のコストと比較すれば、合理的な投資と言えます。中立性が確保できるか不安な場面では、積極的に外部の力を借りることを検討してください。

ハラスメント報告書テンプレート活用のまとめ

ハラスメント報告書テンプレートは、苦情相談報告書・ヒアリングシート・調査報告書の3種類を一式そろえておくことが理想です。テンプレートがあれば、事案発生時に慌てることなく、必要な情報を漏れなく記録できます。

報告書を作成する際は、客観的事実のみの記載、情報管理の徹底、そして再発防止策の具体化が三大ポイントです。とりわけ、主観や憶測を排除し、5W1Hに基づいた事実関係の記述を心がけることで、当事者が読んでも納得できる報告書になります。

ハラスメント報告書テンプレートは「作って終わり」ではなく、法改正や社内規程の変更に合わせて定期的に見直すことで、常に実務に即した状態を維持できます。組織全体のハラスメント防止体制を支える基盤として、テンプレートの整備と運用改善を継続していただきたいと考えます。

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